LikeとDislikeの間に横たわるもの

(3/27日にだいたい書いたんですよね。そのあと塩漬けにして、推敲。)

 僕としては珍しく彼方此方で参照されたりした気配のある例のエントリ(漢字の母国の明朝体と、その神話性についての空想。)ですが、その関係でいただいたコメントとかトラックバックを観ているとやはり人間とその言葉というのは属人的であって、ものごとをつらねていくのはかくも難しくそして面白いものなのだなぁとなむ思ったりします。(すみません意味不明ですね)

 生活日報■ [書体]中国と明朝体
http://d.hatena.ne.jp/mashco/20050325#1111757247

中国では篆書・隷書・楷書を「正書」として格をもたせたことで、3つの正書とそれ以外に分離され、書体にヒエラルキーが生まれた。有名な書家が官僚だった経緯のせいかもしれない。

一方、日本では、書体にそういう「格」がない。


 半可通(半ですらないか)であるところの鉄と亜鉛は、格というものがいまいち(いやまるきり)分からなかったりしますゆえに困ったものです。そのため僕の眼球フィルタでは自動的にTPOという和製な英語へと変換されていたりします。
 でもまあTPOというコトバと格というコトバが意味するところが異なっているというのはワカるので、ぼちぼちと噛みしめます。
 というか自分の中で意訳なんですよね。

中国では1956年以降、政府として簡略字と横書きを公式化し、そこではソンティ(宋體?/宋書体?、日本でいう明朝体のスタイル)が制定書体として採用された。漢字を数万字から7000字まで減らし、39の筆致で表現できるようエレメントを基準化した(会議のメモより)。確かに、明朝体ならパーツの標準化に適しているし、ウロコや打ち込みのおかげでその線がハライなのか斜めの直線なのかの判別も容易だ。このとき中国政府は書体を「格」ではなく、簡体字制作という目的を達成するために選んでいる。


 政府による標準化という視点がばっさり僕には抜け落ちていましたが、パーツの標準化といえばGT書体も最初は普通(じゃあ普通じゃないのは何かとかありますがそれはさておき)の明朝体であったことを想起します。

 GT書体ということで探してみるとこんなコラムを発見。
OPT-コラム
http://www.open-text.com/main/column.htm
GT書体はあえて明朝の特徴を排している。
 GT書体は、開発当初明朝の結体(けったい)を基礎としていました。しかし、調査範囲が拡大し文字数が増えるに従い明朝の結体ではどうしても壁が出来てきます。GT書体は、正確でなければいけません。しかし、反面可能な限り明確で汎用性を持ち合わせなければいけないのです。相反するテーマを長年追求した結果といえます。その為、明朝の特徴を排し今の結体に完成しました。例えば、書き順による結体差です。右の図のように明朝の特徴的結体では「ム」は3画に見えます。「ム」は2画なので、そう見えるように形づくられています。


 画像もあり。http://www.open-text.com/images/column02a.gif

 僕の中はGT明朝は一般の明朝体と教科書体の中間的存在だということで理解しているのですが、しかし分業の副作用か、同じ構造の漢字でエレメントのサイズが揃っていなかったり色々。とはいえ開発者グループ自身そういったものを目指しているわけではなく学術目的だと言明されているので、ある意味問題ないのでしょう。
 それに、美観的に“使える”本文用書体を作って頒布することに問題もあるのでしょう。官による民業圧迫とか(明朝体は全部政府が作って配布しているのだと思っている人もいるようですが)。和文フォント大図鑑の桜花氏が日記帳で以前、上質過ぎるフリーフォントの配布は考え物かもしれない、というようなことを仰っていたように記憶しています。(過去ログみつけられないですが)

 で、思いっきり話がそれてしまったようではありますが、じつのところそうでもなく。GT明朝を巡る妄想は、ちゃんと(?)つながったりするのでした。

 さて、またしても武道の話に一旦飛びます。
 僕は〓〓道(※)をやっておりまして、ハマってしまい抜けられずにいるわけです。まあ人生傾けるほどではない(と思う)わけですが。〓〓の中身を書くとかなりの高確率で僕個人が特定できてしまいますので書きません。それぐらい超マイナーです。
 で、合気道とかも好きですね。友人がやっている影響もありまして。直接関係のない遠くのところまで、ネットの力でお近づきになって出稽古に御邪魔させていただいたり。
 仕事場の近くに空手の道場があってそこに見学に行ったりもしました。
 でも空手も素敵なのですがやはり、〓〓道のほうが僕にとって習慣性・中毒性があるというわけで今に至ります(このあたりはまた後日)
 カラテ(現代の。古い空手はまだ詳しくないので範疇外)も好きですが合気道はもっと好きですね。趣味的に技術的に。しかしその思想に共感するかというとまた別の話で。
 でもそれよりも〓〓道のほうが好きなわけです。遙かに。
 しかしたとえば後輩とかが道場で「合気道の技術だとこのように動かすから云々」「空手ではこの場合こうだから、AはBじゃないんですか」とか言うのに対しては、〓〓道の内包する、思想と技術の一体性とか、技術の体系性とかから語ります。語ります。

 なにか細かい技ひとつ(突き技ひとつ、投げ技ひとつ)であっても、その理屈・理論を他の武道に求めるまでもなく〓〓道には一貫した/統一されたメソッドがあるのに、なぜ他の部品を求めるのか、
 それを足すことは却ってバランスを崩してしまい、〓〓道修行者としての自分を遠回りさせてしまうというのに、わざわざそうするのはなぜか。
 ……そんなことを思いますので、僕はそのあたりは切って捨てるのです。「要らねぇ」。
 むろん、考え方の参考にするところはしますし、「これは異なるメソッドだけれど、他の視点から類似の動作を検討することには価値があるから」となむ述べて説明・紹介することはあります。
 ですがリプレイスしてしまうことはなく(現代武道でそのような姿勢を取っているところがあったりして、傍目に観ている限りでは首をかしげてしまうわけですが)あくまでも"岡目八目"を己がものとする手段だと僕は思うのでありまして。
 「空手ではこう突いて……/だから〓〓道としてもこうしたほうが」
 「合気道の投げはこう優美で……/固める技も合理的で」
 そうじゃあないんですよね。自分たちなんてのは、数百年の歴史の中では流れ去る小葉に過ぎず、まして達人ではなく若輩で、
 中にいるひとが外のものを(参照するのはいいけれど)称揚してリプレイスしようとするのは滑稽で、大切なモノを蔑ろにしているように、僕には思えます。
 空手だって好きなんですよ。合気道だって好きなんですよ。
 でも僕の世界の中では、〓〓道のほうが圧倒的に優位を占めていて、……というか〓〓道を学ぶ空間においてはそれは当たり前のことですが。
 「少林寺拳法では~~なんですか」
 「柔道では~~なんですか」
 ……なんていう質問が矢継ぎ早に来るならば、こう答えることでしょう。 
 「どうしてそのような質問ばかりするのか? 我々には我々の歩むものとして最善のものが、すでに用意されているというのに」
 
 
※註:「〓」は伏せ字。というか本来は「ゲタ」。活版印刷の用語で、該当する文字が存在しないときに文選・組版工程で「活字を裏返して入れた」状態。ゲタの歯のように見えるためその名で呼ばれるわけで。なので本来文字コード(のようなもの)を持つ存在なのではなく、すべての文字が裏返せばゲタ。……しかしまあコンピュータで扱うためにはコードを与えられているわけでして。
 『基本 本づくり』は活版メインで写植が新技術だという時代の本で面白いのですが、そこには「やたらとゲタを沢山履いた初校紙を出してきたり、再校・三校でもゲタだらけの校正紙を出してくる印刷所とかあって最低」(意訳)となむ書いてありました。
 とりあえず見あたらない文字はゲタで出しておいて、校正している間に彫り師のヒトが仕上げたりした模様。印刷博物館のスタッフのヒトに聞いたりした話では、偏と旁がそれぞれ有る場合にはまっぷたつに切ってニコイチ(二個一)でくっつけて刷ってしまうことも日常だった模様。(意訳。ひょっとしたら誤解しているかもしれません)
 印刷に関して文字なんてのは、活字の状態がどうだとか、文字コードがどうだとかいうのは枝葉末節というかそれ以前の問題であって、読者の目に触れる製品が”きちんとした文字”であれば本来いいはずなわけです。内部的にどんなに無茶苦茶な組み方をしていようが。(活版の時代には、ある意味、現代のような意味での無茶苦茶な組み方というのは無理だったのでしょうけれど。)

 ……脱線話につける註釈からいつのまにか話が戻りかけていますが、まあぼちぼち。計算済みのような計算間違いのような。


 さて、いまのところ『逍遙 本明朝物語』『活字に憑かれた男たち』を読了したわけですが、僕にとっての疑問そして「このようではあるまいか」という点が、結構解消されたりする今日このごろ。

 三度目の中国旅行で、洛陽の孫成崗という知性ある青年に明朝体を見せながら、あれこれの質問をした。多分あまりに私の質問がくどかったのであろうが、堪りかねたように
「何であなたはそんなに明朝体にこだわるのですか。中国には芸術的に誇るべき篆、隷、真(楷)、行、草という五体があり、柳葉体(日本でいう宋朝体に近いようだ)はそれに近いといえますが、あなたのいう明朝体には芸術性はありません」
といいはじめた。なおも私はそれは書道の話では理解できるが云々といいかけると、
「私は新聞はともかく、好きな小説を明朝体で読みたいとは思いません」
といい放ち、私たちを唖然とさせた。同文同書の国であると思い込んでいたのは日本人の勝手であり、中国人はやはり明確に書体の構造と背景を歴史的に把握し、独自の使途を見定めているのであった。

 『逍遥 本明朝物語』 98~99ページ

 上述の、武道に関する僕のコトバはこの構造を(まるっきりそのまま、ではありませんが)引いたわけでして、
 そして僕は空手や合気道が嫌いなわけではありません。むしろかなり好きです。ボクシングとかも好きです。格闘しないスポーツだって好きです。それらはどれも素晴らしい。
 ただ、〓〓道のほうがずっと好きだというに過ぎないわけで。

 中国の人(ただしインテリ限定かもしれませんが)が明朝体より楷書体etcが好き、というのならワカるじゃないですか。
 ほかに百倍好きなものがあるのと、それを嫌いだというのとでは随分違いますよね。

 それだけの話のような気がします。ただそれだけのような。
 (ただその周辺のことについてはこのあと僕は勉強してみます)

 日本の人が(その印刷の来歴のゆえにか)、中国の人に比べて”異様に”明朝体を偏愛している、というのもワカりますね。それなら理解できます。
 ただし、日本人が本当に明朝体loveなのかというと大いに疑問が残るところです。(書き言葉としての日本語が、印刷の領域において漢字だけで組む文化ならば、そのまま中国の文化との対比ができますが。)

 
 ……明朝体の仮名ってぇやつは、明朝体じゃない、じゃないですか。
 SCREENのサイトの連載を見ると、明治初期には明朝仮名が志向されていた時期もあるようで。
 そして写研の大蘭明朝かなDとか。これこそ明朝風/明朝系の和字ですよね。
b0062477_23512125.jpg

 明朝風の和字は結局本文用としては採用されず、漫画のフキダシが石井ゴシックとアンチックの混植であるように明朝と楷書の混植がスタンダードとなり、
 和字の比率は5~6割以上。“昨今増えている”とはいえ、前掲の『基本 本づくり』の時点でも漢字が半分を超えていたわけではなく。

 (あくまでも現代&さかのぼって半世紀程度の状況ですが)文字量にして半分が明朝体じゃないのに、これって「明朝体」なんですかね。本当に。
 無論、速読などで意味を追う核としての部分が漢字であるのは既知のことですが。


(まだつづく)

(……2月あたりでbookmarkは更新休止にする予定だったはずなのにもうすぐ5月だなぁ。)
(休止じゃなくて頻度downか。それなら想定通りか)



(2006.11.01追記)
最近(この夏ぐらい?)ようやく“書体の格”というモノがワカるようになってきました。
……なのでこのあたりの話の続きは、いずれ書くやもしれませぬ。
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by fezn | 2005-04-24 23:25 | Typeface


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